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沼津ワープ

 二十八の時、パスタ屋の仕事を辞めて神奈川から古巣の大阪へ引き揚げた。

 午前九時過ぎに車で川崎を出発した。
 車内で物々しい音楽を流しながら、もう二度とここへ来ることはないだろうと感慨深く出発したが、じきにクリーニング屋へスーツを預けたままだと思い出し、Uターンして早速戻った。随分締まらないけれどしようがない。

 大阪へは町田から東名高速に乗ればいいところを、敢えてしばらく下道で行こうと考えた。高速料金の節約のつもりだったけれど、ガソリンをよけいに食うのと疲れるのを考慮すると、全体どれだけ効果があったか甚だ曖昧である。
 果たして、厚木まで行った時点で随分億劫になった。それで厚木市を抜け、沼津の表示が現れたところで下道はよして、高速道路に入った。
 それからサービスエリアで休憩しながら、午後八時頃に大阪の吹田へ着いた。
 この時から自分にとって沼津は静岡の東端で、厚木は神奈川の西端ということになった。

 先日、仕事の都合で名古屋から沼津へ出かけた。何しろ静岡の東端のつもりでいるから、自分の中では随分遠い。ただでさえ東西に長い静岡県を横断するので中々の行程だと思ったが、調べてみると遠いことは遠いが、それほどでもない。
 よくよく見ると、沼津は静岡東端ではなく、また厚木も神奈川の西端ではない。

 静岡にはきさらぎ駅の話もある。ことによるとあの時は厚木と沼津が変な具合につながったのではないかと考えたが、きっと違う。
 どうしてそんな勘違いをしたものか、確かめる方法もないので、思い出すと片付かない気持ちがする。



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 代表作『牛おばさん』とその後日譚(書き下ろし)、違和感と余韻を残す随筆集『いつか見た情景一・二』、不思議な話・気持ちの悪い話を集めた『ここではないどこか』の4部構成。


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