鳥は恐竜、人は魚?(分類学つぶやき)
こんにちは。このところ、お寺関連の記事が続いて、ついに「出家した?」と聞かれた浅川千です。しっかり俗世の垢にまみれて生きております。
古生物ジャンルの記事を書いていると、「鳥は恐竜」という内容に頻繁に触れます。もう3記事に1回くらいの割合(体感)で触れます。
鳥が恐竜から進化したことは有名ですが、それで「鳥は恐竜」ということになるなら、「じゃあ人間は魚か?」「真核生物は原核生物なのか?」と、イチャモンめいた疑問がムラムラと沸き上がってきました。
気になって調べてみると、「鳥は恐竜」どころではないあれやこれやがわかってきたのです。
鳥は恐竜であり、爬虫類である
現在の分類学は「分岐群(クレード)」という考え方をするようになり、その原則にしたがうと、鳥は恐竜でなければならなくなってしまったのです。
たとえば、分岐群の考えにしたがうと「爬虫類」は「単系統群」という分類群になります。単系統群とは、ある共通祖先から進化した生物をすべて含めたまとまり。その祖先から進化した生物は、残らず「爬虫類」になるわけです。

爬虫類の共通祖先から進化した鳥類は爬虫類に含まれる(あくまでイメージ。細かい分類は日々知見が更新されている)
霧木諒二 - File:Monophyletic.svgを投稿者が日本語化, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16670387による
恐竜も「恐竜類」という単系統群として定義されており、恐竜の共通祖先から進化した生物はすべて恐竜類ということになります。

「恐竜の共通祖先」が具体的にどんな動物かは不明だが、約2億3000万年前(三畳紀)にいたエオラプトルはそれに近い初期の恐竜と考えられている。
By Nobu Tamura email:nobu.tamura@yahoo.com http://spinops.blogspot.com/ http://paleoexhibit.blogspot.com/ - http://spinops.blogspot.dk/2015/07/eoraptor-lunensis.html?q=Eoraptor, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50251427
そして鳥類の祖先は、恐竜のなかの獣脚類から進化したと考えられています。となると、鳥類も恐竜の共通祖先から進化した生物であり、分岐群の原則にしたがい、「鳥は恐竜の一部」ということに。

初期の鳥類やその近縁の羽毛恐竜については研究の発展が著しく、どこからが鳥類かも活発に議論されている。有名な始祖鳥は、現在でも最初の鳥類の有力候補。
By Durbed - http://durbed.deviantart.com/art/Archaeopteryx-litographica-313930947, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=37106064
恐竜は絶滅なんかしていなくて今もそこらじゅうにいるし、私たちは日々、恐竜の唐揚げやらボンジリやらを食べているわけです。
ただ、これでは言葉として不便なので、最近は中生代に絶滅した恐竜たちを鳥類と区別して、「非鳥類型恐竜」「非鳥類型獣脚類」といった用語が使われるようになってきました。
ちなみに、恐竜は爬虫類の共通祖先の子孫なので、「恐竜は爬虫類」です。これは昔からのイメージどおりですが、そうなると「鳥は爬虫類」でもあるわけです。
クジラは偶蹄目(そしてカバと近縁)
分岐群の考え方と並んで、生物の分類に激動をもたらしているのが、遺伝子技術の発展にともなって発展した、分子系統解析です。
かつての分類学は、どうしても形態的な見た目の類似性を大きな判断基準にせざるをえませんでした。しかし分子系統解析によって、見た目では想像もつかなかった生物どうしの類縁が続々と明らかに。
そういった例のひとつが、ウシ・イノシシ・ラクダなどの偶蹄目と、クジラ(鯨類)の関係です。
現在では、クジラの祖先は偶蹄目から進化したと考えられています。つまり、「偶蹄目の共通祖先」から進化したクジラは、偶蹄目の一部。偶蹄目に代わって、鯨偶蹄目という分類群名が使われることも多くなっています。

約4800万年前~3500万年前(始新世)に生息していた古代のクジラ。
By Pavel.Riha.CB, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3840162
分子系統解析はまた、クジラとカバそれぞれの祖先が非常に近縁であることも明らかに。カバの仲間は、クジラと姉妹群とされるようになったのです。

カバとクジラは毛があまりないなどの共通性があるが、それは同じように水中生活に適応(収斂進化)したためと考えられていた。分子系統解析により、両者は系統としても近いことがわかった。
By Diego Delso, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74486420
四足動物は肉鰭類(つまり、人は魚である)
四足動物、つまり両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類など陸上脊椎動物の祖先は、肉鰭類という魚類のグループから進化しました。現生の魚でいえば、ハイギョやシーラカンスなどが肉鰭類です。

約3億6500万年前(デボン紀)に出現した、ごく初期の四足動物。
By SeismicShrimp, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=145966198

約1億5000万年前~9000万年前(ジュラ紀~白亜紀)にかけて生息していたシーラカンスの一種。全長は最大で5mを超えたと推測される。
By Lionel Cavin, André Piuz, Christophe Ferrante & Guillaume Guinot - https://www.nature.com/articles/s41598-021-90962-5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=118636013
四足動物は肉鰭類の一部。そして、肉鰭類は魚類の一部。ということは、なんと「人は魚である」は、「分類学的には、YES」ということに…。
真核生物は古細菌(?)
現生のすべての生物は、原核生物の「細菌」か「古細菌」、そして「真核生物」の3つのどれかです。そして現在、真核生物は古細菌から進化したとする見方が主流になっています。
となると、「真核生物は古細菌の一部」に(=真核生物である人間は古細菌ということに)なるのか…と思いきや、このあたりはまだはっきり定義されていないようです。
古細菌から真核生物までを単一の系統としてまとめた「ネオムラ」という分類群が提唱されていますが、これもまだ定着に至っていません。
また、真核生物の細胞内小器官であるミトコンドリアは、「細菌」が取り込まれたものと考えられています(植物の場合は、葉緑体も)。

生物界の大きな分類(古細菌・細菌・真核生物)のうち、真核生物は古細菌から進化し、真核生物の細胞内小器官であるミトコンドリアや葉緑体は細菌が由来と考えられる。
Chiswick - File:Symbiogenesis_2_mergers.svg, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=155253053による
さらに。真核生物が古細菌から進化した頃の生物の世界では、遺伝子が生物間を移動したり、生物が合体したりといったことが頻繁に起きていた可能性も。
そういった事情もあり、真核生物が古細菌から進化したといえるのかどうかは、それより後の進化段階の生物の分類と比べてかなり複雑なようです。
哺乳類は爬虫類、ではない
昔は「哺乳類は爬虫類から進化した」と考えられていましたが、それは古い考え。現在の考えにしたがうと、「哺乳類と爬虫類は、そのどちらでもない共通祖先から進化した姉妹群」です。
「哺乳類の祖先」、「爬虫類の祖先」は、どちらかがもう一方から進化したわけではありません。なので、どちらかがもう一方の分類群に含まれるわけではないのです。
「哺乳類の祖先」と「爬虫類の祖先」は、さらにさかのぼると、同じ共通祖先から進化しています。その「哺乳類と爬虫類の共通祖先」は、初期の有羊膜類ということになります(有羊膜類は、爬虫類・鳥類・哺乳類を含むグループ)。

約3億4000万年前(石炭紀)にいた、初期の有羊膜類。爬虫類や哺乳類の共通祖先に近いと考えられる。現在の分岐群の考えのもとでは「爬虫類でも哺乳類でもない」ことになる。
By ДиБгд, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36921886
そして分岐群の考え方では、哺乳類は「すべての哺乳類の共通祖先の子孫」、爬虫類は「すべての爬虫類の共通祖先の子孫」ですが、「哺乳類と爬虫類の共通祖先」はそのどちらにも該当しないのです。
爬虫類や哺乳類は両生類、ではない
分岐群の考え方が導入された現在の分類学。だた、どこまで厳密に単系統群の原則を適用するかは、言葉としての使い勝手や、かつて人類が把握していた分類のイメージにも少なからず左右されるようです。
たとえば、「両生類」も「爬虫類」も昔からあった言葉ですが、分岐群の考えが導入された際に、爬虫類は単系統群として再定義されたのに対し、両生類は単系統群には該当しない言葉とされました(側系統群という)。
両生類は単系統群ではないので、「両生類の子孫である爬虫類や哺乳類は両生類」ということにはならないわけです。
おそらく、再定義するにあたって「爬虫類や哺乳類が両生類ということになるのは、さすがに不便すぎる」「鳥が恐竜の一部ということになるのは、それに比べれば混乱が少ない」といった配慮があったのではないかと…。
また、「鳥は恐竜」に比べて、「鳥は爬虫類」や「四足動物は肉鰭類」は「分類学的にはそうなるが、あえて言及することは少ない」ような印象を受けます。
おわりに
分岐群という考えにもとづく、生物の分類。なかなか理解するのが難しく、理解の足りないところがあればなにとぞご容赦ください。
それにしても、生物をどう分類するのか…は、なにやら哲学の領域の難しい思考にも似た複雑さを感じます。
まあ、人類はなんとか自然を分類して理解しようとするのに対し、自然はそんなことはお構いなしに、平然と人類の理解を超えることをやってのける、といったところでしょうか。
