掌編小説 『海辺の感想戦』
七年前に亡くなった祖父が生き返っている。
海岸沿いの祖父母の家に着くと、祖父がソファーに座っている。
初めてのことじゃないから、この後どうなるかはだいたい分かる。
祖父か祖母が「亡くなっていること」を思い出したら、祖父は消えてしまう。いつもそうだ。
だから、自然にふるまう。
祖父は「お前、なんか急にデカくなったな」と嬉しそうに笑う。世の中の親戚が必ず言うセリフだ。驚きはしない。でも、最後に会ったのは小学生の頃で、今は高校生だから当たり前だ。
祖父はソファーの肘掛けを擦りながら、「買ったばかりなのに急に痛んできたな。やっぱり合皮だからかな」と首を傾げる。 買ったのはいつだったかと、カレンダーに目をやろうとする。
まずい。話をそらさないと。
「そんなの調べないほうがいいよ」と言ってから、「それより、じいちゃん、将棋やろう」と誘う。祖父は嬉しそうに将棋盤を持ってきた。よかった。
僕の先手でいいらしい。祖父の単純な棒銀なら今は簡単に捌けるけど、ここは七年前のレベルで駒を進める。
祖母が台所から、切ったスイカを持ってきた。 僕らの分とは別に、一切れだけ小さな皿に乗せたスイカを仏壇に供えようとして――
「なんでここに置いたんだろう」
そう言って、仏壇のビンに入ったシーグラスを持ち上げる。三人で浜辺で遊んだ時に集めたものだ。
将棋に気を取られて、つい答えてしまう。
「三人の思い出だから、じいちゃんにって……」
・・・
祖母は「なんか多めに切っちゃったから、たくさん食べて」と、僕に大皿のスイカをすすめる。
「じゃあ、二人分食べるよ」と手を伸ばすと、祖母は「サイダーも飲む?」と、また台所に歩いていった。
後ろのソファーから、「王手だぞ。どうする?」と、嬉しそうな祖父の声が聞こえた気がした。
(了)
※下記、はらとけい様の企画に参加させて頂きました。
#せりふ三題噺
#合皮シーグラス将棋
■セリフ
「調べないほうがいいよ」
■三題
・合皮・シーグラス・将棋
