『じゃない不倫』 #毎週ショートショートnote
「ねぇ、不倫の語源って風鈴なんだよ。知ってた?」夏祭りの屋台で揺れる風鈴を指さして、彼女がニヤける。夏期講習の帰りに寄り道した縁日は、ラムネと焼きそばの匂いが流れている。
「ちょっとした事でも、すぐ揺れて、鳴っちゃってバレちゃうでしょ」
そうなんだ。知らなかったよ。
彼女の言葉をぼんやり聞きながら、風に揺れるガラスの風鈴を見上げる。
――このまま大人になって、彼女は誰かと結婚して、それでもまだ好きで、それで、なんか偶然、再会して、二人に風が吹いたりして。
そのとき、きっと何かが鳴って、全部バレて……
「ガラスの風鈴は、落ちたら割れるから気を付けてね」と彼女が言って、僕の胸を少し強めに叩く。
「嘘だからね。冗談だよ」真顔になっていたらしい僕を見て「信じるとかウケる」と彼女が笑う。そして風鈴屋の屋台を見つけると、「じゃあここ、大変なことになってるね」とからかう。
彼女は南部鉄の風鈴を手に取り、お土産に買って帰ろうかなと軽く振ってみせた。
賑やかな縁日の中で、その音だけが、とても澄んで、いつまでも響いていた。
(了)
※下記、毎週ショートショートnoteの企画に参加させて頂きました。
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