『あの頃、時間は無限にあると思っていた』
バイトの面接に合わせて、友人からもらったヘアカラーで髪を染める。少しだけ明るくするつもりが、ほとんど金髪みたいになってしまった。
それだけで、もう面接に行く気が失せた。
なんとなく台所へ行き、冷蔵庫を開ける。缶ビールが残っていれば「今日はいいことがある」と、勝手に決めていたが、見事にマヨネーズと麺つゆしかない。
今日も、いいことはなさそうだ。
ビールの銘柄が印刷されたグラスに水道水を注いで飲む。台所の窓辺で、半分に切ったペットボトルからネギが伸びきっている。
半額弁当や牛丼ばかりの僕のために、彼女が育てていたネギだ。たまの自炊といえば、ラーメンかソーメンくらいの僕に、
「ねぎ多めで」
と笑っていた彼女を思い出す。
北西向き、一階のアパート。おすすめポイントとして唯一書かれていたデッキに出てみる。素足に伝わるざらついた感触が、気持ち悪い。
外は、目を開けていられないほど眩しい。
足の裏を脛に擦りつけ、貼りついた砂を払いそのまま部屋に戻る。
髪を染め直すかどうか、少しだけ考えた。結局なにも決めないまま、床に横たわる。
しなければいけないことが、たくさんあるような気がする。でも何もしなくてもいいような気もする。
天井を見上げているうちに、また眠っていた。
(了)
※下記、はらとけい様の企画に参加させて頂きました。
#せりふ三題噺
#牛丼金髪デッキ
■セリフ
「ねぎ多めで」
■三題
・牛丼・金髪・デッキ
