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『思い出相続税』 #毎週ショートショートnote

 とうとう、思い出にまで税金がかかるようになった。
 病室で父は、自分の思い出を減らしている。六人部屋のカーテンの内側で、パソコンやスマホの画面を僕に向け「消せ」と言う。

 僕も共有している思い出は問題ないし税もかからない。

 問題は父だけの思い出だ。死んだあとに知ってしまえば、課税対象になる。「人間、生きてるだけで金がかかる」父は笑った。

 画面の中で、僕の知らない父が何度も現れる。読みながら、そして消していくたびに、目の前の父が少しずつ遠くなる気がした。

 病室の仕切りカーテンが、急に開いた。灰色のスーツ姿の男が二人、挨拶もなく、いきなり「確認に来ました」と低い声だ。

「読みましたよね?」
「思い出の生前贈与は百十日分までが非課税です」
「超過分は課税対象になります」
「…続けますか?」

読まずに消せば、問題ない。
読んでしまえば、重税だ。
僕ら親子に来年はない。指が、画面の上で止まる。
 でもこの瞬間の思い出は、非課税らしい。

(了)

※下記、毎週ショートショートnoteの企画に参加させて頂きました。
#毎週ショートショートnote
#思い出相続税


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