ファンタジー掌編 『グランデハムスター』
昨年の夏頃から大きくなりはじめたハムスターが、とうとう二メートルくらいになってしまった。うしろ脚で立ち上がると、僕より大きい。
当然、ケージには入らないので、昨年の末からリビングで一緒に暮らしている。
ハムスターホイールにも乗れなくなり、運動不足になったハムスターを連れて、僕は散歩に出かけるようになった。
大きくなるにつれて動きがゆっくりになったハムスターに「身体が重い?」と聞くと、「落ち着いただけだよ」と笑っている。
…でも、すぐに休みたがる。
コーヒーショップに立ち寄り、注文する。
僕は「休憩は少しだけだよ」と言ってショートのコーヒーを頼むと、ハムスターは「ショート……いや、グランデサイズで」と照れくさそうにこちらを見る。大きくなって、水分がたくさんいるのかな。
ハムスターは席に着くと、口をモグモグし始める。「持ち込みはダメだよ」と言うと、「持ち込みじゃないよ」と頬袋を指差す。家でオヤツにあげたペンネらしい。一度口に入れたものだから……セーフかな。
帰り道は、河原を歩く。故郷の草原を思い出す? と聞くと、「ケージ生まれです」と言ったあと「……大きくなりすぎたからってペットショップに返却したりしないよね」と心配そう。
しないよ、絶対返さない。
「だから、ちょっとだけ背中に乗せて」と頼むと、「少しだけだよ」と言って、背中に乗せてくれた。
ハムスターの背中にしがみつくと、一年前、手のひらの中にあった温もりが、僕の体をつつみ込んだ。
(了)
※下記、はらとけい様の企画に参加させて頂きました。
■セリフ
「ショート……いや、グランデサイズで」
■三題
・草原・返却・ペンネ
