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じぶんのこと

 「わあ!」
 急に持ち上げられた。
 身体の浮遊感が急に襲ってくると同時に、眩暈も襲う。五感が鋭く、ふんわりとして持ち上げられる感覚で、世界がぐらぐらとしている。
 畦道、水が流れて空は快晴だ。空気の匂いは澄んでいる。
 「なんだこの記憶は!」
 どこで得た想い出なのか、さっぱりわからない。
 水分を摂る時と云えば、喉が渇いた時にしか摂らず、それも一日の総量で云うと、500mlのペットボトルを飲み干せるかどうかの瀬戸際にいるので、水分不足が要因となっている可能性は否めない。なので、一応水分を補給しておいた。
 頻繁ではないが、体験した事のない、異空間の記憶のようなものが吹き込まれる。ようなものというのは、実際に体験した覚えがないのだ。小学生の時には、放送室の中に初めて入った時に同じように記憶が吹き込まれ、強い眩暈に襲われ倒れかけた事がある。
 明らかに体験した事のない、絵に描いたような世界が脳に浮かびあがり、それは異様に明瞭で、コントラストが激しい。
 その体験をする際には、必ずと云ってもいいほど、嗅覚が関係してくる。
 因果関係はわからないが、「新しい空間に踏み入れる事」と「その空間独特の匂い」に因って齎されるものだ。
 正直な話、こんな事を誰に話したところで変人のように捉われるので、独りで抱え込む事が常だ。

 「どうしてこんなにも普通になれないものか。」
 クローゼットの上で呟く。自室というのは、親の寝室があり、その傍にあるレール式の扉を開けば、大体1.5畳ほどのクローゼットがある。そこが、自室兼牢獄である。
 兄は二人いるが、どちらも4.5畳ほどの部屋を持っている。この生活には慣れてはいるが、なんとも兄と比べると、人という生物の中では、最低限度の生活だけを渡された、人以下の存在を証明されているようなものだ。
 であるからこそ、貪るように惰眠に耽り、本を読むだけのロボットとなる。こんな環境にいるからこその、学校にも出向かずにいられる特権であろう。

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