TGR『wanna manna 』台湾朝食を東京で食べる
💼note038 TGR『wanna manna 飯田橋サクラテラス店』
近くて遠い桃源郷
前稿でも書いたが、私は台湾が好きでよく観光に行く。亜熱帯の気候に飛び交う台湾華語、日本の学校では習わなかった漢字の看板、そして美味しそうな匂いと、独特な香辛料の匂い。この五感が刺激される非日常感がたまらない。
仕事以外で旅行好きが海外に出る理由はさまざまだ。しかし、どこへ誰が出かけようとも、外国では異邦人であり、旅行自体が非日常にほかならない。日頃耳慣れた喧騒とは違う、現実味のない異世界のような空間。日本のしがらみから解放されるとき、心が研ぎ澄まされるような高揚感を覚える。
そのせいだろうか。必要な費用を両替したはずなのに、いつも足りないのは解放感と高揚感のなせる技かもしれない。
台北市中山國小の朝
妻と二度目の台北旅行を計画していた頃、毎晩のようにYouTubeの『ゾロの台湾グルメ』チャンネルを見ていた。チャンネル主のゾロは、台湾を愛しすぎて移住してしまった日本人の中年男性だ。この人物は台湾の大衆食堂を巡り、台湾人が日頃どんなものを食べているのかを伝えるために、数多くの動画を投稿している。
その中に、台湾MRT(地下鉄)の中山國小駅近くにある食堂の朝食を紹介する回があった。
旅行二日目の朝7時。妻に手を引かれ、中山國小駅から地上に出ると、風もなく晴れ渡った青空が広がっていた。Googleマップを頼りに歩き、タイル張りの約5坪ほどの店舗にたどり着いた。カウンター10席と4人掛けのテーブルが2卓。客入りは半分ほどだっただろう。
そこで食べた朝食が、ゾロに感謝せずには居られないほど美味しかった。
あの味が忘れられない
台北から帰ってきた後も、東京であの味に出会えないかと思い、私たちは競うようにネット検索をした。五反田、九段下、渋谷、浅草。提案し合い、検討し、休みのたびに朝から行列に並んだ。しかし、中山國小で食べた朝食に匹敵する味には巡り合えなかった。
それでも諦めきれず、とうとう飯田橋の店にたどり着いた。飯田橋サクラテラスに出店している飲食店は、どれも平均点以上のハイクラスな味を誇る。この店を見つけたことがきっかけで通い始めたが、それはまた別の話だ。
美味しい料理、楽しい時間
今日もサクラテラスの外エスカレーターを二階へ上ると、右手奥に目的の店が見えた。10か月ぶりに訪れてみたが、以前と変わらない様子に胸をなでおろした。
ガラスドアを押し開けて店内へ入り、中央に仕切りがあるテーブルに着席。去年もこの席で食べたことを思い出し、懐かしさを感じた。
この店の注文方法はスマホのLINEを使う。目の不自由な私に代わり、妻が手際よくオーダーしていく。もちろん、中山國小の店で食べたのと同じメニューを。
鹹豆漿(シェントウジャン):塩気のある豆乳スープに、揚げパン(油條)、小エビ、刻みネギなどを加えた料理。
蛋餅(ダンビン):薄い生地に卵をのせて焼き、巻いて食べる台湾式卵団子。
台湾粽(タイワンチマキ):もち米を炒め、豚肉やシイタケ、タケノコなどを竹の葉で包み、蒸し上げる伝統料理。
豆花(ドウファ):絹ごし豆腐より柔らかい生地に、ほのかに甘くなめらかな糖蜜をかけた台湾スイーツ。
鹹豆漿の塩加減は絶妙だ。ふわりと香る豆乳の風味と、揚げパンのジュワッとした食感がたまらない。揚げパンが少し硬いのは、まるで「お腹に優しい料理だぞ」と主張しているかのようだった。
蛋餅は表面がカリッとしているのに、中はもちっとした食感が堪らない。勢いそのままに粽の竹の皮をむき、一口頬張る。
隣では妻が呆れ顔を崩しながら笑う。「急いで食べなくても、料理は皿から逃げたりしないよ。」
すまない。しかし食べるスピードは落とせず、妻が半分ほど食べ終わったころには、私は豆花に取り掛かっていた。
甘い蜜に浮かぶピーナッツ、タピオカ、小豆、白玉、フルーツなどのトッピングが楽しい。この味が東京で味わえる喜び。次に訪れるのは、きっとそう遠くない未来だろう。
