我が社のAIたちに作画コンペを仕掛けてみた。──自作小説のイメージボードをAIに頼んだら、想像以上に"個性"があった。②
『フレデリ・デリカ』 璃野結瑪
フレデリカは、やることなすこと、いつもひとつ余計だ。
このおしゃまな姪っ子の玉蜀黍色の髪の毛は、子どもらしい柔らかな毛質で、綺麗なウェーブが自然についている。
そのまま何もしなくても充分に可愛らしいのに、わざわざ、わたしに「ナターシャ、三つ編みにして」なんてお願いするから、あちこち"むし"ができたぼさぼさの三つ編みになってしまって、ひどく野暮ったく見える。
わたしは、手先が不器用だ。
おまけに、五歳児のエネルギーはすさまじく、常に動き回っているから、ますます結び目が解れてしまう。
すぐに、ぼさぼさの、よれよれ。哀れな三つ編み。
もう解いてしまったら、と提案しても、本人はお気に入りのようだから決して、縦結びになってしまったリボンをとろうとしない。
あるときには、姉──フレデリカにとっては母──の化粧道具を持ち出して、お姫様ごっこと称してわたしの唇に口紅を塗りたくったあげく、口紅を折ってしまったりした。
おかげで、わたしが姉に大目玉を食らうことになった。
夕飯の買い出しを手伝ってくれるというので、スーパーマーケットからの帰り道、オレンジをひとつ持たせたら、案の定、落っことしたこともある。
坂を上ったところで落としたものだから、オレンジは転がって転がって、坂を上った距離より遙か遠くまで行ってしまった。
ようやく探し出したオレンジは、傷だらけ。
けれども意外に味は良く、爽やかな甘みがあった。
「ナターシャにだけ、フレデリカの、ひみつのばしょ教えてあげる!」と、引っ張っていかれ、林のなかに連れて行かれたあげく迷子になったのは、何年前のことだっただろう。
泣きじゃくるフレデリカを抱っこして、夕暮れの道を歩いたことを今でも覚えている。
フレデリカは、やることなすこと、いつもひとつ余計だ。
「ナターシャ、コーヒーどおぞ」
リビングのソファーでくつろいでいると、とことことフレデリカがやってきた。
危なっかしい手つきで、マグカップを持っている。
両手で持てばいいのに、左手に何か持っているのか、小さな右手は重みに負けそうになってぷるぷると震えていた。
「あら、ありがとう」
マグカップの底に手を当て、受けとると、「まって、おまじないしてあげるから」フレデリカが神妙な顔で言った。
「おまじない?」
「うん。おいしくなるおまじない」
大人しく待つことにする。言いだしたら、聞かない子なのだ。
フレデリカは握りしめていた左手をマグカップの上にかざすと、呪文を唱え始めた。
「ちちんぷいぷいぷい、ふれでり・でりか!」
やけに真剣な顔で、ゆっくりと左手を開く。
ちゃぷんと、コーヒーのなかに角砂糖をひとつ放りこんだ。
少し角が丸くなった角砂糖は、しゅおしゅおと、マグカップの底に沈んでいった。
なかのコーヒーの色は、白と茶が混じりあい柔らかなカフェ・オレそのものだ。
わたしは普段、コーヒーには何もいれない。
ミルクもなし、もちろんシュガーもなし。
「ふふっ、それ……フレデリカのオリジナルのおまじない?」
「そおだよ。フレデリカのおまじないなの」
そっと、コーヒーに口をつけた。──甘い。甘いを通り越して、甘すぎる。「おいしい?」
「うん? そうね、おいしいよ」
フレデリカの期待するような声に、わたしは曖昧に微笑んだ。
嬉しそうにフレデリカが膝の上に乗ってきたので、慌ててマグカップをサイドテーブルに置く。
カチャン、と陶器が何かにぶつかる音がした。
いや──何か、じゃない。
音の主を、わたしはよく知っている。鈍く輝く、金色の指輪。
つい、ぼんやりと、そのエンゲージリングを眺めてしまった。
「ナターシャ」
呼ばれて、その方を向くと頬に温かな感触があった。フレデリカの唇。
柔らかな花の蕾に触れたみたいだった。
「あのね、ナターシャ。大きくなったら、フレデリカがナターシャとけっこんしてあげる」
「結婚?」
面食らって、思わず聞き返してしまった。
結婚の意味が分かっているのかしら。
「フレデリカと?」
「そおだよ。けっこんって、ずっといっしょにいるよって約束することなんでしょ」
きらきらとどこまでも澄んだ瞳に見つめられて、わたしは息をのんだ。
いったい、いつからわたしが指輪を外していたことに、この子は気づいていたんだろう。
「フレデリカ、ナターシャとずっといっしょにいるからね。ナターシャ、ずっとフレデリカといっしょにいてね」
首に巻き付いてくる幼い子どもの腕に、わたしはこみ上げてくる涙を飲み下した。
三年付き合い、婚約した彼からもらった指輪を外したのは、彼にわたし以上に愛している人がいると気づいたからだ。お互い、いい大人だから良い別れ方をしようと努力した。穏やかに、「さよなら」しようと。
周囲には、わたしたちは互いの人生を尊重して別々の道を歩むことにしたのだと説明した。だから、寂しいけれど悲しくはない、と。
けれども、そんなのは"いい大人のふり"をしていただけで、悲しくない別れなど存在するはずもなかったのだ。
少なくとも、指輪を外した、わたしには。
涙ぐんでいると、「お砂糖、もうひとついる?」フレデリカが囁いた。「あまいの、げんきになるよ」
先ほどの甘ったるいコーヒーの味を思い出して、わたしは思わず笑った。
「ううん。もう、だいじょうぶよ」
ありがとうの代わりに、ぎゅっと彼女を抱きしめる。
フレデリカは、やることなすこと、いつもひとつ余計だ。
でも、この小さな気遣い屋さんの溢れんばかりの優しさが、わたしはいつだって愛おしくてたまらないのだ。
【Fin.】
『フレデリ・デリカ』をAI漫画化
MOOTOON STUDIO
『フレデリ・デリカ ~フレデリカのコーヒー~』
🔗https://studio.mootoon.ai/share/Vb__X3ChcosTWg4f
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