セフレドールコスメ 2 (創作 フィクション #片想い文芸部)
最初はこんなに好きになるつもりじゃなかった
‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾
僕はあと1年で会社を辞めることが決まっていた
僕の家は地元の山口県で不動産や建設、運送、コンビニのフランチャイズ経営等を行っている、いわゆる地元の名士と呼ばれる家だった
東京の大学にいった僕も当初は大学を卒業したら地元に帰って跡を継ぐ予定だったが、父が5年くらいは外の空気を吸ったほうがいいと言ったことによって5年間は東京で働くことになった
父から総合商社に就職するように言われて僕はその通りに就職していた
僕にとって父は絶対の存在だった 僕だけじゃなく
地元における父の影響力は絶大だった
不景気、災害、コロナ等で会社の経営が苦しくなるたびに父が陣頭指揮をとって立て直していた
僕はそんな父を心から尊敬していたので父の言うことに逆らったことはなかった
父から言われた五年の期間に気がかりなことがあった
それは高校時代から付き合っていた 梨沙 のことだった
梨沙は地元の大学に進学していて大学時代は遠距離恋愛だった
ようやく地元で一緒に過ごせると思ったのに離れ離れの期間がもう5年伸びることになったのだ
いつもは父の言うことを即断していたのにすこし迷いを見せた僕に父は
[なにか東京で就職したくない理由があるのか?心配事があるなら正直に言いなさい]
と言った
父に対して嘘や誤魔化しが通用しないことがわかっていた僕は正直に付き合っている彼女と今まで遠距離恋愛だった事、その彼女にあと5年間1人で地元で待たせる事に迷いがある事を伝えた
すると父は、将来結婚するつもりがあるのかを聞いてきたので、そのつもりであることを言うと
[来週、家に連れてきなさい]
と言って梨沙と父が会うことになった
当日、梨沙はすごく緊張していたようだったけど、元来の気立ての良さと聡明さを父はとても気に入り、その場で
[息子は5年間東京に修行に出すけど、君との将来を本気で考えていると言っている 一方的な提案になって申し訳ないが君さえよければそれまでウチの会社で働いてくれないかね?]
と、言ってくれた
父は仕事であれ、プライベートであれ、いつもその時々で問題解決の最善策を考えてくれる
そのときは、本気でそう思った
僕にとっては結婚するまでの間、将来自分が継ぐ会社で彼女が婚約者という立場で働いてくれるというのはこれほど心強い状況はなかった
梨沙にとっては高校を卒業してからの遠距離恋愛が4年から9年にのびたのには何も変わってなかったのに…
心残りがなくなった僕は地元に帰って父の後継者になる日まで少しでも多くの経験をするために休みの日もいろいろなセミナーやフォーラムに参加して充実した日々を送っていた
そしてそんな東京での充実した日々は梨沙との会う頻度を著しく下げていた
大学時代は最低でも月に一度は会っていたのに、梨沙が実家の会社で働いてくれている安心感から3ヶ月会わないことも普通になっていた
そうして東京の会社で働き始めて2年半がすぎたある日、夜中に泣きながら梨沙が電話をかけてきた
内容はよくあることだった
遠距離恋愛の寂しさに耐えられず、一晩の過ちを犯したと泣きながら謝ってきた
僕は東京にいたために参加できかった地元で行われた高校の同窓会で遠距離恋愛の寂しさの愚痴を言っているうちに深酒をしてしまい一晩の過ちを犯してしまったと
相手は僕もよく知る、顔だけ整った中身のない軽薄な男だった
梨沙は悪くない
むしろ、世の中には平気で二股をかけるような人間が多いだろう
そんな中、梨沙は5年以上も遠距離恋愛をさせられ、3ヶ月以上も会えない状況にも耐え、たった一度の過ちを泣きながら電話してきたのだ
僕は梨沙を許した
そしてそれからは月に2回必ず第二と第四の土曜日には地元に帰って梨沙と会うようにした
すべては今まで通りだった
いや、むしろ、今まで梨沙をほったらかしにすることが多かったのが月に2回会うことになったので2人の距離は縮まった…はずだった
大学時代は梨沙と2人で会える時間が限られていたため、食事はいつも松屋の牛丼で簡単にすませてその分いろんな所にいったり、いろんな話をしていた
そして簡単にすませていたはずの梨沙と食べる食事はたとえ牛丼だとしても何よりも美味しく感じていた
今はもう、梨沙とどんな美味しいレストランにいってもあまり味を感じなくなってしまっていた
僕は梨沙に愛情を持てなくなった自分に気づいていた
しかし、父に紹介して婚約者として実家の会社で働いている梨沙と別れるわけにはいかなかった
陽子と2人でラインのやり取りをするようになったのはちょうどそんなときだった
2つ年下だが同期だった陽子とはそれまでも仕事上のやり取りや同期の飲み会などで一緒になっていた
見た目は地味だがよく笑い愛嬌のある陽子と話をすると、なんだか梨沙のことで病んでいる心が軽くなるような気がしていた
2人でライン通話をするなかで、思わず
[彼女と別れてバレンタインチョコ誰からももらえないからなぐさめてよ]
というと陽子はいつものように笑いながら大きいチョコを作るから全部食べたらなぐさめてくれるといった
当日、陽子は本当に大きなチョコを作ってきてくれた
陽子はギャグで大きなチョコを作ったと言っていたけれど、たとえギャグだとしてもそのために時間を割いて励まそうとしてくれた優しさが嬉しかった
気を抜くとその優しさに涙がでてきてしまいそうだったのでそれを悟られないように夢中で食べた
食べ終わったら陽子にいきなりキスをされた
陽子に対する恋がはじまっていることをはっきりと自覚してしまう不意打ちのキスだった
それから何度かの夜をともにした
地味でおとなしいけど芯もあり、よく笑う陽子が僕にしかみせない顔をみせてくれるたびに彼女に深く惹かれていく
気がつくともう引き返せないところまで好きになってしまっていたが、僕には父に紹介した婚約者がいた
梨沙のことで苦しむことはなくなった変わりに尊敬する父を裏切れない思いが僕を苦しめるようになった
そして僕が出した結論は…自分から陽子を遠ざけることができないから陽子に嫌われて梨沙の元に戻るということだった
陽子とは会う約束をすることは極力さけて、いきなり呼び出して乱暴に抱いてそのまま泊まらせずに帰らせた
これをくり返していれば陽子は僕を嫌って去っていくだろうと思った
ただ、1つだけのわがままとして陽子が望んでくれた日は行為の後に近くの松屋にいって食事をしてから別れた
短い時間でも、行為以外に陽子と話をする時間がなにより楽しかったし、陽子と食べる牛丼はどんな高級な料理より美味しかった
そんな扱いをされているのにも関わらず陽子はいつも笑顔で
逢えてうれしい
大好きだよ
牛丼美味しいね
いつ呼んでくれてもこれるようにするね
そんな優しい言葉をくれた
そのたびに僕は陽子に対しする愛しさが募っていき、そして父を裏切れない苦悩におちていく
僕は陽子に対する愛情が抑えきれなくなる前に決定的な事をして嫌われる決意をした
陽子がくる直前やシャワーを浴びている間に梨沙に電話をして着信だけ残してすぐに電話を切り、折り返しの電話がかかってくるようにして、その画面が陽子にわざと見えるようにしたのだ
何度もそれをして陽子に リサ の存在を認識させたのにも関わらず陽子が僕に愛想を尽かすこともそれを怒ったりすることもなかった
ただ、いつものように優しく微笑んで 大好きだよ
という言葉を残し、美味しそうに牛丼を食べて帰っていくだけだった
なぜあんなに健気に僕を想ってくれるのだろう
なぜあんなに上手に人を好きになれるのだろう
父や会社より陽子の存在が大きくなってしまったのを自覚した僕は陽子と真剣に向き合うことを決意した
本来だったら会社をやめて地元に帰るはずだったので最後のバレンタインになるはずだった2月14日にあらためて陽子に全部告白することにした
その日を2人の本当の記念日にしようと思った
つづく
