赤辛ラーメンと老紳士と欅坂46 (再)
今は違いますが私は30代のときにラーメン屋さんに転職したことがあります
自分の人生を考えたときに、一度しかない人生だから思い切って好きなことをやってみようと思ったのがキッカケでした
私は中学生くらいのときからラーメンが大好きになり、休みの日にはラーメンを食べ歩くことだけを目的に電車で出かけたりする程でした
大好きなラーメンの世界に飛びこんでみたい
でも生活もあるし、安定のなさそうな世界に飛びこむのは怖い
そんな葛藤を抱えていた時に麻雀店の有線から流れてきたどこかのアイドルっぽい曲の
見栄やプライドの鎖に繋がれたようなつまらない大人は置いて行け
という一節が私の心に刺さりました
家に帰ってから調べると欅坂46のサイレントマジョリティーという曲でした
もう一度家でその曲を聴いたときに、
ああ、私、置いていかれる 待ってくれ、欅坂46
というわけの分からない感情になり
よし、飛びこんでみよう
と、決断してすぐに会社を辞めました
あとは、夢に向かって一直線のはずだったんですが、日がたつにつれ、勢いで会社をやめたのは良いものの、やっぱりある程度の、安定、保証は欲しいよなあ
と思うようになってきました
最初の決意はどこいったのでしょう
まっすぐに夢に向かう自分と欅坂46の歌詞に酔って会社を辞めましたが、すでに人生の二日酔い模様でした
そうなんです
自慢ではありませんが、すぐに人生二日酔い状態になった私には未知の世界に飛び込むにしても、全力で味のみで勝負している生粋のこだわりラーメン店に飛び込んで、
最初はバイトからでもいい 安い給料からでもいい 師匠にみとめられて暖簾分けをしてもらうんだ
と、いうような、気迫、気概はこれっぽっちもありませんでした
考えた結果、私はラーメン店、うどん店、肉バル、
牛丼店、等を多角的に経営している外食チェーンに転職をすることにしました
選んだ理由は福利厚生がしっかりしていることでした
外食チェーンなのでラーメン店に配属されるかはわからないと面接で言われましたが、自分酔いからさめていた私は
全然大丈夫です、どこの配属であろうと全力でやらせていただきます
と言って採用されました
ラーメン屋さんになりたくて会社をやめたのに牛丼屋に配属になる
そうなってもいいのか? 欅坂46に置いていかれるぞ?
そんな心の中の自分の声を完全に無視して新生活は始まりました
配属は幸いにも希望通りのラーメン店でした
ラーメン店での勤務は師匠みたいな人についてじっくり技術を学んで職人さんみたいになるというのではなく、マニュアルを正確に覚えてシステムを使いこなすといったものでした
例えば スープもその日の出来や季節や材料により職人が絶妙なサジ加減で調理したりするのがこだわりラーメン店ですが、外食チェーン店ではスープの原液の容量が書いてある何種類かのレードルの使い方を覚え、材料も毎日本社から送られてくる真空パックに入った材料を煮込むだけといった具合でした
麺を茹でるのも麺の様子をうかがい、良いところでサッと湯から上げて華麗に湯切りをしてスープに投入する みたいな感じではなく 網に麺を入れると決まった時間で自動で湯から上がってくるようになっていたのでそれをマニュアル通りに3回網を振って湯切りをしてスープに投入する みたいにかなりシステマチックになっているものでした
そう、これはラーメンの職人の世界に飛び込んだのではなく、営業職としての商材がラーメンに変わっただけの転職でした
拡大を続ける外食チェーンは人手不足のため、2週間程研修しただけでいきなり埼玉県にある店舗の責任者を命じられました
その店舗は夕方までの時間限定の契約社員とアルバイトのみで回している店でした
正社員は私1人なので朝から晩まで働いていて毎日目の回るような忙しさでした
配属から3ヶ月くらい経った日、赤辛ラーメンにまつわるトラブルが起きました と、いうか、私が起こしました
赤辛ラーメンというのは、名前の通り通常のラーメンよりも辛いラーメンで、麺は通常ですが、スープは特製辛味調理料を入れて最後に数滴のラー油を足らしたものを真っ赤な丼に入れて、 いかにも
めちゃくちゃ辛いですよ
という空気を出したラーメンで、辛いものが好きな人には好評でしたが、注文される頻度はそこまで高くないメニューでした
そのトラブルがあった週はアルバイトスタッフが体調不良で急に休むのが続き、その穴埋めを私が全部していたので体力的にかなり疲弊していました
それでもなんとか、このランチタイムのラッシュを凌げば休みがとれると思って気力を振り絞っていたときに、ふと気がつきました
あれ?そう言えばさっき出した赤辛ラーメン
辛味調味料いれたったけ?
あっヤバイ、辛味調味料入れてない‼
気がついたときには、もう手遅れでした
辛味調味料の入ってない赤辛ラーメンはアルバイトスタッフによって60代くらいの男性の常連さんに提供されてしまっていました
提供された赤辛ラーメンは、赤い丼に入り、上にはラー油がかかっていていかにも辛そうな雰囲気をだしてますが、一切の辛味調味料が入っていないため全く辛くないラーメンでした
私は調理作業をしながら、恐る恐るその常連さんの様子をうかがうと
うん、うん、と頷きながらとても美味しそうに辛くない赤辛ラーメンを食べていました
私は
よし、ラッキー あの人舌バグってるわ
と、不覚にも思ってしまいました
このまま黙っていれば、私のミスはバレないし、お客さんも美味しいと思いこんで帰る
よし、このまま‥……と思ったときに
見栄やプライドの鎖に繋がれたようなつまらない大人は置いて行け
欅坂46が私の脳内に流れました
初心とは全くかけ離れてしまって、こだわりラーメン店ではなく、外食チェーン店の勤務になってしまったけど、これをごまかしたらすべての自分の尊厳が失われる気がしました
私は厨房をアルバイトスタッフにお願いしてお客さんに謝罪にいきました
[お客様、大変申し訳ございません、そちらの赤辛ラーメンは辛味調味料を入れ忘れて提供してしまいました お代は返金させてもらいます よろしければ作り直しさせていただきますがいかがいたしましょうか?]
と、いうと
[いえいえ、大丈夫ですよ、いつも食べてるから
辛味調味料が入ってないのはわかっていました
それでも美味しいからそのまま食べていたので
返金はしないでいいです 本当にしないでいいです]
と、言われたので
[大変恐縮です、それではせめてチャーシューをサービスさせていただけませんか?]
と、言うと
[わかりました、それではチャーシューだけもらいますね それよりなんか、今日疲れてないですか?]
なんということだ
老紳士は全部わかっていたのだ
お客さんにもわかるくらい疲弊している私のミスを許容してくれるために辛くない赤辛ララーメンを黙って食べてくれていたのだ
神様、仏様、欅坂様、一瞬でも
あの人、バカ舌だわ、ラッキー
と思ってしまった私をお許しください
アーメン
そしてラーメン🌊🌊🌊
長々読ませて終盤でダジャレぶっ込んでくるのかよっ て思って怒った方、修業が足りません あの日の老紳士のような広い心で私を許容しないと欅坂に置いていかれますよ?
嘘です、すいません、調子に乗りました、暴力だけはやめてください、ひどいです、せめて顔はやめてください、謝ってください…
最後、真面目に言うと、今はもう勤務地等の事情で転職しましたが、あの時、好きな世界に飛びこんだことで後悔のない人生を歩んでいると思えています
では、失敬🌊🌊🌊
