美学 (創作 フィクション #片想い文芸部 #黒歴史食堂)
高校生のときから通う馴染みの喫茶店で私は何かいいアイディアがないかと考えていた
そんな私を見てマスターは話かけてきた
[何かあったのかい?]
私は
[実はずっと振り向いてもらえない人がいたんですけど、実際に振り向いてもらえたら、自分の気持ちはもうそこにはなくて…]
と言った
マスターは
[私でよかったら話を聞くよ]
と言ってくれた
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私には彼氏がいた
彼とは大学の時に知り合って、私が一方的に想いをつのらせていたが、全然相手にされずにいた
大学を卒業して3年が過ぎる頃に私から食事に誘い、かなり露出の多い服で色仕掛けをした
深酒をしていた彼はその勢いと私の誘惑に落ちて一夜を共にした
そこから一応 付き合う という形になったのだが彼は全然私の事を好きになっている素振りはないし、心情的には片想いのときとあまり変わってなかった
なぜそんな私達が恋人関係になっているかというと、彼が
君さえよければ関係を持った責任をとるよ
と言ったからだった
彼は 色仕掛け に落ちてすぐに私を抱くような男の割に、
男とはこうあるべき
という美学を持つ人で、その美学の中に
抱いた女の責任はとるべし
というものがあるようで、その自分の美学に従って好きでもない私と付き合いはじめたようだった
私は、彼のそんな薄っぺらいところも好きだった
本当はものすごく心の狭い人間なのに、器の大きい男であろうとして、自分で決めた薄っぺらい美学をやせ我慢して守っている姿がとても人間らしくて、たまらなく愛おしいかった
そんな日々の中で彼の様子に変化がおとずれた
今までも私と会うときはあまり楽しくなさそうだったけど、あきらかに会う頻度を減らそうとし始めたのだ
彼が私の家に泊まりにきてシャワーを浴びている時に携帯を見てみた
どうやら、会社の後輩の女の子に言い寄られているらしかった
彼もまんざらではなさそうだが、彼の中の
浮気はしない
という美学があるからまだその娘とは進展してないようだった
このままでは捨てられてしまう
と思った私は彼がシャワーをでて私を抱いた後に
実は…子供ができたみたいなの
と嘘をついた
彼はあきらかに曇った顔で
わかった 責任をとるよ すぐにでも籍を入れよう
と言って、1週間後に私達は入籍した
入籍はしたが、私は彼が新しく借りてくれた新居には移らずに自分の部屋に住んだままにしていた
新居で一緒に暮らし始めると妊娠したという嘘にどこかでボロがでると思ったからだ
そんなことになる前になんとかこの嘘を本当にしないといけないと思っていた
何度も彼を誘って妊娠を企んだが、どうやら
妊娠は抱かない
という美学が発生してしまったらしく、彼は私を抱くことはなかった
本当に妊娠していたらもうすぐ8ヶ月になるはずの時期になってしまった
3ヶ月くらい前から つわり がひどいと言って彼と会うのを拒絶していた私はその間
何かいいアイディアはないか
とずっと考えていたがそんなものは思い浮かぶはずもなかった
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お前が子供ができたと言ったから、親にも挨拶にいって籍も入れたのに
それはどう見ても イス だろ
彼は私を責めたてる
引くに引けない私も強気で言い放つ
何言ってるのよ、私達の子供じゃない
私は パイプイス をまるで子供のように抱きながら
ほら、あなたにそっくりじゃない、目元とか、鼻筋とか、裏筋とか
彼は言う
それは、顔じゃない 背もたれだ
私は
なんでそんなこと言うのよ、ダイスケが可哀想じゃない
彼は
ダイスケ?お前、おかしくなったのか?
と言った 私は
あなた、入籍する時に言ったじゃない
これから2人は夫婦になる だから、何があっても俺はお前を裏切らないし、お前を信じる
だから、お前も俺を裏切らないで信じてついてきて欲しい
これは、俺の美学だって
自分の美学にしたがって私を信じてよ
というと彼は黙って部屋を出ていった
自分でもめちゃくちゃな事を言っているとわかっていたけれど、何もアイディアが浮かばなかった私には、ニトリで買ってきたパイプイスをダイスケと呼び、ゴリ押しで美学を盾に彼を論破するしかなかった
次の日も彼は家にきて
今後どうするのか とか 本当は妊娠していなかったのか とかの話し合いをしようとしてきたけれど、10ヶ月嘘をつきつづけて疲れ果てていた私はもう半ばヤケクソでその話には付き合わずに
あのパイプイスはダイスケでダイスケはあなたの子供だと言いつづけた
そんな日々がひと月くらい続いたとき、彼に変化がおとずれはじめた
私が抱いている パイプイス を撫でたのだ
そのときの彼の目は慈愛に満ちたものだった
始めは、おかしくなった私に話を合わせて パイプイス を撫でたのかと思っていたけれどそうではなかった
彼の パイプイス を見る目は 我が子を見る愛に溢れた目 に変わっていった
毎日、毎日、私に論破され続けているうちに彼は自分の美学に飲み込まれたに違いなかった
每日每日彼を説得してようやく彼を洗脳することができた私はある感情に支配されていた
あれ?コイツキモいな
彼はどんどん ダイスケ を自分の子供と認識した行動をするようになっていった
昨日はついに
なあ、ダイスケって俺に似てるかな?
と言ってきた
私はどん引きしながら
そっくりよ
と言った すると彼は
そろそろダイスケと君と3人で暮らしたいから新居に移ってきてくれないか
と言った
私は狂ったダンナと暮らす、ニ人と一脚の暮らしに恐怖を感じ何も返事をしないでいた
無言の私に考えておいてと言って彼は部屋をでていった
私はどうしようかと考えながら無意識にパイプイスを開きその上に座っていた
そのときにガチャっと玄関が開き、彼が忘れものを取りに部屋に戻ってきた
彼は私を見て固まっている
私は無意識にパイプイスに座っていたので状況を認識できていなかった
彼が叫びながら、私に突進してくる
子供に座るなああああ
彼の形相に恐怖を感じた私は、ダイスケをたたみ、突進してくる彼を
プロレスラーが場外乱闘でパイプイスを使って相手を殴る
ときのようにメッタメタに殴った
殴り終わったあと 私が放り投げたパイプイスに向かって彼が
ダイスケ…
と、虫の息になりながら声をかけていた
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私は聞いた
マスター、私、間違っていたのでしょうか?
マスターはゆっくりと口を開いた
………
とりあえずよく見たら血だらけだから、いったん自首しようか…
…はい
私は片想いが成就して相手の想いをモノにできたとしても自分の気持ちとタイミングが合わなければ犯罪につながってしまうことを知り、そんなことを他人に気軽に話してしまったことを後悔しながら、マスターを殴り倒した
イスで
完
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あとがき
片想い文芸部と黒歴史食堂の両方にテーマに沿うものを書こうと思って書き始めたら最後ホラーみたいになってしまいました
まだまだ稚拙なところ多いですが、読んでくれた人にいつか
スゲーなコイツ
と思ってもらえるものを書けるように精進しますのでお付き合いいただけると幸いです
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
