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小説    「深夜一時、声を見つけて」28


深夜一時。木曜日が終わり金曜日がやってくる。
地方局の小さなラジオブースで、売れない中年声優、桐谷宏太朗が「探偵」として、こぼれた声の相談を受けています。マイクの前で声をなくしそうな大人たちと、少しだけ昔を引きずった男の、少し不思議な深夜ラジオ小説です。

 「改めましてこんばんは。桐谷宏太朗です。
  この番組は、“変化の話を聞くのは好きだけど、
  自分の番が来るとちょっと面倒くさい”
  人たちのための深夜窓口です」


 「今夜はですね、ちょっとざわっとするタイプの
  メールが何通か届いております」



 「ラジオネーム“深夜一時のカレンダー”さん
  からいただきました。ありがとうございます」


 「『桐谷さん、スタッフのみなさん、こんばんは。
  ラジオネーム・深夜一時のカレンダーです。

  最近、SNSで「ローカルFMともしびの
  深夜番組が春で終わるらしい」という
  ざっくりした噂を目にしました。

  そのとき真っ先に頭に浮かんだのが、
  この番組「深夜一時、声を見つけて」でした。

  もしや、この番組もそろそろ
  最終回が見えてきているのでしょうか。

  先日の放送で、“新しい挑戦をしたい”という話を
  ちらっとされていたので、もしかして関係があるのかな、
  と勝手に勘ぐってしまっています。

  もちろん、番組にはいつか終わりが来ると思います。

  でも、“知らないうちに終わっていた”よりは、
  “ちゃんとさよならを言える”ほうが、いいなあとも
  思ってしまいます。話せる範囲で構わないので、
  この番組のこれからについて
  少しだけ教えてもらえたらうれしいです。

  最終回でもないのに、こんなメールを送って
  しまってすみません。でも、“いつも通り”の
  あのオープニングがあと何回聴けるのか
  気になります』」

読み終えて、息をつく。


 「……深夜一時のカレンダーさん。
  まずはひとつだけ、はっきりさせておきましょう」

 「今日の放送は、最終回ではありません。」

少し笑いを混ぜる。

 「とはいえ、
  こういう噂のメールが来るということは、どこかで、
  “終わり”とか“区切り”の空気が
  ふわっと流れ始めているのかもしれません。」

 「実はスタッフとも、“もしこの番組に終わりが来るとしたら
  どういう終わり方がいいか”という話をちょこちょこ
  するようになりまして」

 「この中年自身も、最近ちょっとだけ
  “声優としての新しい挑戦”を始めたりしているので、
  リスナーのみなさんがいろいろ勘ぐるのも、無理はない
  というか、話題に出していただいて、
  ありがとうございます、という気持ちです」

 「というわけで今夜は、“この番組のこれから”と、
  “何かを続けながら新しいことを始めるとき、
  どこまで言葉にしておくか”という話を混ぜながら
  お送りしていきたいと思います」


 「先程ラジオネーム・深夜一時のカレンダーさんからの、
  “最終回って本当ですか?”という、ざわっとする
  お便りをご紹介しました。」


 「実はですね、似たようなメールが何通か来ています。」


モニターをざっとみて抜粋していく。

 「ラジオネーム“録音勢のマーカー”さん、
  ありがとうございます。」



 「『毎週、仕事のある日は録音して週末に
  まとめて聴いています。もし本当に終わって
  しまう日が来るなら、“最終回”のマーカーをちゃんと
  付けたいなと思ってしまいます。

  終わりがあるのは仕方ないとしても、知らないうちに
  “あれが最後だった”と後から知るのは、寂しいです』」



息を整える。


 「分かります。俺もも、好きだった番組が、
  いつの間にか終わっていて、録音フォルダの中を
  ぼんやり見ながら、“あれ、これが最後回だったの?”って
  後から気づく、みたいなことが何度かありました」

 「なのでまず、これははっきり言っておきます」

 「もしこの番組に本当の意味での“最終回”が来るとしたら、
  そのときは、ちゃんと“何日が最終回です”ってここで
  言います。“今日がたぶん最後ですけど、まあ、
  そのうち”みたいなぼんやりした終わり方は少なくとも
  俺もあまり好きじゃないので」


ガラスの向こうで、ディレクターの山本が
小さくうなずく。


 「とはいえ、“今シーズンの区切り”とか、
  “ここで一度、自分の立ち位置を見直したいタイミング”
  みたいなものは確かに近づいている気がします」

 「最近、構成作家の久我さんとも
  “もし、この番組にいつか最終回が来るとしたら”
  “そのとき、中年に何を言わせたいか”
  そういう話を、台本の余白でぽつぽつするようになりまして」

 「なので今夜は、“ここで終わります”という話ではなく
  “いつか終わる日が来たときに、この番組らしい
  終わり方って何だろうね”という話を、ひと足先に
  始めておこうかなと思っています」


エンディングBGMが静かに流れ始める。


 「そろそろお別れの時間です。
  今夜は、“この番組、最終回が近いんですか?”
  というお便りを中心にお届けしてきました。先程も
  言いましたが、今日の放送は最終回ではありません」

 「ただ、番組をやっている側としても、
  “永遠に続くものではない”ということはどこかで分かって
  います」

 「“いつ終わってもおかしくない”という意味ではなくて、
  “いつでも終われるように言葉を選んでおきたいな”
  という意味で」

 「これまで、いろんなリスナーさんの“やめたい 
  続けたい”の話を聞いてきました」

 「仕事を辞めるかどうか。部活をやめるかどうか。
  恋愛を終わらせるかどうか」

 「そのたびに俺は、“やめてもいいし、続けてもいい”って
  わりと軽めに言ってきた気がします。なので今、
  自分の番組のことを考え始めたときに
  “ちゃんと終わらせたくなったら終わる”
  “まだ話したいことがあるなら続ける”」

 「その両方を自分で選べるようにしておきたいな、
  と思いました」

 「構成作家の久我さんには“もしもの最終回案”
  みたいなものを実はちょっとだけ書きかけて
  もらっています。“この番組がいつか本当に終わるとしたら、
  こんなふうにさよならを言えたらいいね”ってやつを」


 「これからしばらくのあいだ、
  この番組は“最終回がいつ来てもおかしくない番組”
  として、でも同時に“まだ終わるつもりはない番組”として
  ゆるゆる続いていくと思います」

 「その矛盾を抱えたまま続けていくのが、きっとこの番組には
  似合っている気がするので」

 「それはそうと、メール送ってくださる皆様の比喩表現が
  日に日にパワーアップしていることに驚いております。

  ここまでのお相手は、“終わり方の練習を始めたけれど
  まだ当分終わる気はない中年”、桐谷宏太朗でした」

 「それではまた、来週のこの時間に」

 「おやすみなさい」


フェーダーが下がり、「ON AIR」のランプが消える。


つづく



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