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千羽鶴の祈り


「鶴は千年、亀は万年」ということから、
鶴や亀は縁起の良いものとして考えられている。

よく結婚式のご祝儀袋の水引にも、
祝福と末永い幸せを祈って鶴などの形があしらわれている。

また、広島の平和記念公園には
平和を祈願して多くの人たちが捧げた千羽鶴せんばづるがある。
広島で原爆にあい10年後に原爆症となった少女が
12歳で亡くなるまで千羽の鶴を折り続けた「原爆の子の像」もある。

千羽鶴には、長寿や幸福、病気が治るなどの意味がこめられている。



広島平和記念公園・原爆の子の像と千羽鶴(写真AC)



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オーストラリアの鶴


20年以上前になるが、
オーストラリアの私立高校の日本語クラスで
ボランティアのアシスタントティーチャーをしていた時のことだ。

生徒の一人が病に倒れ、
日本語クラスの先生方や生徒たちと
みんなで千羽鶴を折って贈ったことがある。

ご家族にとっては珍しい日本の文化だが、
その千羽鶴に込められた意味を知り、たいそう感激された。

私が帰国後、その生徒は無事に回復されたそうだ。



青天の霹靂へきれき



私は海外ボランティアから帰国し
また他の国に行こうと思っていた矢先に
ガンになった。

予定は全てキャンセルせざるを得なかった。

入院中、姉妹が千羽鶴を折って
持ってきてくれた。

ガンは、昔は不治の病と言われていたものだが、
現在は早期発見なら助かる確率が高くなった。

日本にいる時で良かった。

それまで滞在していた開発途上国にいる時だったら
命の保証はなかっただろう。

手術は無事に成功し、もう10年以上になる。

「私は生かされている」

自然に感謝の気持ちが湧いてきた。

残りの人生は神様から頂いた命
人の役に立つことに使いたいと思うようになった。



残念ながら、お世話になった主治医は、
その後ガンで亡くなったと人づてに聞いた。
まさに医者の不養生とはこのことだ。

人の命はあっけない。
人命を救う医師もまた人間である。




生きるのに必要なもの



母のガンが発覚したとき、
高齢であることもあり
若い担当医は「治療はしません」と言った。

したいけど「できない」ではなく、
「しない」とはっきり言ったのだ。

優しく感じのいい先生だったが、
その言葉は母から生きる希望を失わせた。

医師の言葉は、薬にもなるし毒にもなる。


いつも快活でおしゃべり好きな母だったのに、
あっという間に元気がなくなった。

日曜のお昼に放送されている「のど自慢」のテレビ番組に
いつか出るのが夢で
よく歌を歌っていたのに鼻歌も出なくなった。

好きだった朝の連続ドラマ小説も
途中から見なくなった。


生きていくには希望が必要なのだ。
その希望とは、明日はいいことがある、と信じられること。

そして真っ暗闇の中でも一筋の光が見いだせれば、
生きていく勇気が湧いてくる。

その光は自分が望めばきっと見つかる。
そう思っていた。

母は「ただ死ぬのを待つだけなのは嫌だ」と言い、
「なんでこんな体になっちゃったんだろう」と悔しさをにじませた。

「治療はしない」という言葉に納得できない私たちは、
一縷いちるの望みと奇跡を信じ、
他の病院の医師にセカンドオピニオンを求めた。

その老医師は、事実は伝えるが、
決して希望を失わせなかった。
一番大切なのは
本人の生きようとする気持ちだと話してくださった。

目から長年の経験から来る威厳と慈愛を感じ、
理想の医師とはこのような人なのだろうと思った。

だがその話を、母は直接聴くことが出来ないほど弱っていた。


自宅療養中に容体が悪くなり救急車で病院に運ばれた時、
医師から余命は数日から2週間だと告げられた。

孫が遠くから駆けつけたが、
病院側の面会制限によって直接会うことが叶わなかった。

スマホでの面会は許されたので、
母は画面越しに一生懸命、瞳の動きや表情で
「会えなくてもちゃんとわかっているから大丈夫」
と語っているようだった。

緩和ケア病棟に移ることになり、一時帰宅した。
たった一晩だったが、自宅でゆっくり孫や娘たちと過ごせたのは、
最後に神様がくれた幸せな時間だった。

緩和ケア病棟では、
家族の付き添いが一人ずつなら認められたため、
四人姉妹で交代して泊まり込んだ。

母はもう話はできなくなったが、耳は聴こえていた。

そこで私は、
以前ワークショップで作った
自作の絵本の読み聞かせをした。

最後に母が登場するシーンがある。
海外の旅から帰り
母と再会した私が本当の幸せに気づくという
青い鳥のような物語だ。


母は命が尽きるまでの2か月間、
生きることへの強い執念や家族へのあふれる愛など、
動けなくなり話せなくなっても、全身で伝えてくれた。

私は母を通して、命の重さと尊さを思い知らされた。

最後まで子どもに己の命を通してメッセージを残してくれた。
親とはかけがえのない存在だ。

たいして親孝行もできずに
逝かせてしまったことに悔いが残る。


母の死に顔は美しく、まるで寝ているようだった。

今にも目を開けて、いたずらっぽい目をくりくりさせて、
にっこり笑ってくれそうな気がした。
だがもう目を覚まさなかった。

棺に、色とりどりの花と折り鶴を入れ、
作りかけだった千羽鶴に糸を通して葬儀場に飾り
皆で見送った。



法要も終わり、静かな日々が続いている。

生前、母が俳句をしたためるのに使っていた机に座り、
伝統和紙の折り紙で
母を想いながら鶴を1羽折ってみた。

窓際に置くと
一瞬、風で鶴の羽根が少し動いた。

窓の外の青空を見上げ
天まで届きますように、と祈った。








最後まで読んでくださり、ありがとうございました。



#創作大賞2026
#エッセイ部門

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🌈表紙と挿絵はGeminiで画像生成しました

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