見出し画像

哀しみと共に生きる


 数年前、相次いで父と母を亡くした。
深い喪失感と、もっと優しくしてあげればよかったという
後悔の念にさいなまれ、気持ちの浮き沈みのある日々を送っていた。


フォトフレームの中で見つめ合う二人

 
 
 ある日、気分転換に訪れた老舗和紙店で、
ふと目に留まったフォトフレームを手に取った。

外側はシンプルな紺色の文様の和紙があしらわれていて、
内側は優しい藤色で、一目惚れした。

すぐに頭の中で父と母の写真を入れてみたところを想像した。

生前はいろいろあった二人だが、
ちょうど左右に写真を入れられるようになっているので、
父と母がお互いに見つめ合っているようにしようと思いついた。

終わりよければ全てよし。

早速買い求め、少しウキウキしながら自宅に持ち帰った。


古いアルバムを引っぱり出して、ちょうどよい写真を探していたら、
ふだんは仏頂面の父が珍しく母の隣で一緒に笑っている写真が見つかった。

知らない人が見たら、いつも仲良しのオシドリ夫婦に見えるだろう。
実際、夫婦のことは子どもにもわからないものだ。
大喧嘩したと思ったら次の日にはケロっとして笑っていたっけ。
父が先立ち、母には長生きしてもらいたいと思っていたのに、
母もあっという間に逝ってしまった。

このフォトフレームが天国の二人と
残された私を穏やかに包みこんでくれる気がして、
とても嬉しくなった。


今私は、誰もいなくなった実家で、
母が助けた猫と暮らしている。
この猫にどれだけ癒されてきたか。

家族みんながいたころは狭い家だと思っていたが、
一人になると広くガランとしている。

でも、両親の写真を見えるところに飾っておけば、
今もまだ一緒に生活しているような気がする。

朝の連続ドラマやカラオケの番組も一緒に見よう。

法事で親戚が集まったときには、
このフォトフレームをテーブルに置いて
一緒に思い出話に花を咲かせたい。

 人は誰かが思い出す限り死なない、と聞いたことがある。
誰もその人のことを語る人がいなくなったら、本当の死が訪れる。

肉体は滅んでも魂は生き続けると言うが、
見えないものを信じる力が弱っているとき、
この写真の中の父と母が私に笑いかけてくれれば、
明日からもがんばっていける気がする。



騙されても騙さない、そんな両親を誇りに思う


写真を見ながら、父と母は幸せだったのだろうかと想いを馳せた。

二人とも、戦時中に生まれ戦後の復興を生き抜いてきた世代だ。

父は若い頃、人権運動に熱中しすぎて祖父から勘当されたという。
正義感が強くお人好しな父は、世間知らずなところもあり、
だまされたことも数知れず。

母は、15歳で雪深い実家を離れ、
「ああ野麦峠」の映画のように、
女工として製糸工場で働き家に仕送りをしていた。

そんな大切なお金を盗られたことがあると聞いた。

人から騙されても自分は騙さない、
誰かに盗られても自分は盗らない、
そんな二人を誇りに思う。

やられたらやり返す、
そんなことを繰り返しているうちは、平和は訪れない。

誰も知らなくても私が知っていればいい。

そして、きっとお天道様も見ている。

人生いろいろなことがあるが
苦しい時も楽しい時も共に生きてきた父と母は
幸せだったと言えるのではないだろうか。

 ある日、いつものように誰もいない自宅に帰り、
玄関のドアを開けて、「ただいま」とそっと言ってみた。

父と母が、仲良く「おかえりー」と
声をかけてくれた気がした。








最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




#創作大賞2026
#エッセイ部門

**********************

🌈表紙と挿絵はGeminiで作成しました。

note-786



いいなと思ったら応援しよう!

🍀人を喜ばせてお役に立ちたい💞ひろ 応援ありがとうございます。<(_ _)> いただいたサポートは、恩送りの活動に役立てたいと思います。💞

この記事が参加している募集