使える刀を、使わない理由——なぜ与党は伝家の宝刀を抜かないのか (永田町食堂 Vol.5)
登場人物
霞(元官僚) 票田(選挙・民意) 財前(財政)
まぜ坊(揺さぶり手) しもあ(観察者)
まぜ坊
「今度は国会の会期延長の話らしいですね。60日間、延ばすとか延ばさないとか」
票田
「60日ルールだ。参院が60日以内に議決しなければ、否決とみなして衆院で再可決できる。今の与党は衆院で単独3分の2を持っている。戦後初めてだ」
まぜ坊
「そんなに珍しいんですか」
霞
「戦後まもない10年は、再可決自体は珍しくありませんでした。今回、単独で抜ける条件が初めて揃った、というだけです」
まぜ坊
「じゃあ抜けばいいじゃないですか」
しもあ
「憲法自体、衆院優位で作られています。参院への配慮は、条文というより慣行です。投票箱は澱が噴き出す装置です。より新しい澱の方が、今の腸を正確に映す」
財前
「理屈は分かる。だが条文の限界まで毎回使い切るのが正しい運用なのか、"使えるが普段は自制する"という不文律まで含めて制度だったのか」
まぜ坊
「自制って、誰が決めるんですか」
霞
「個々の政治家にとって、使う判断はその都度合理的です。誰も悪意はありません」
票田
「もう一つ理屈がある。窮鼠猫を噛む、という話だ」
まぜ坊
「窮鼠猫?」
票田
「参院自民の幹部はもうこぼしている。『首相は万能感に浸っている』と。追い詰めれば、皇室典範のような本命まで巻き添えで止まる。だから執行部は、使うより"使うと言い続ける"方を選んだ。鈴木幹事長は延長せず、典範改正を優先すると決めた」
財前
「理念で守っているのではなく、鼠を噛ませない方が得なだけか」
票田
「理念と損得が、今回はたまたま同じ答えに着地しただけだ」
しもあ
「守っているのが理念でないなら、損得が逆転した次は、この堤防はもう働きません」
まぜ坊
「じゃあ参院って、何のためにあるんですか。使えるけど使わない、噛まれるから使わない、それだけなら、なくても同じでは」
誰も、すぐには答えなかった。
霞
「それに答えると、護憲論ではなく改憲論の話になります」
* 誰も答えを見つけないまま、まぜ坊はいつものように味噌汁のお替りを頼んだ。店主は何も言わずに注いだ。それが、いつまで続くかは誰も知らない。 *
