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それを愛と呼ぶなら・・・アメリカタニワタリノキ嬢の独白その2

彼の愛(体重)が重くって一年前に別れを選んだあたし。
だけど、セイヨウキヅタの彼とアメリカタニワタリノキのあたしは赤い糸で結ばれた運命なのかもしれない。
あたし決めたの、これから再び彼と一緒に歩もうって。
 
別れた後、不幸せだったのかって?ううん、そんなことない。距離を置いたおかげでホッと一息をつけたのは事実よ。
 
ほら去年のアルバムを見てよ、あたし笑ってるでしょ。夕焼けを見ながらカクテルを飲んでね、「自分に乾杯」って。バカみたい。だけど、身軽になってようやく自分と向き合えたの。

それじゃあ、さびしかったのかって?ううん、それもない。だって「よっ、お姉さんすてきだね」って(悪い)虫にもたくさんたかられちゃったんだから。あたしだって満更捨てたもんじゃないのよ。
 
もちろん、もう一度話をしたい、って彼が下からあたしを見つめていることは知っていたの。接近してきたことだってあったけど、そんな気になれないのって断ってた。

でも、ある日「暑いけど、元気にやってるか」って聞かれて、そのさりげない優しさにちょっとうるっときちゃった。
だって地球が温暖化しているでしょ。急激な環境の変化に将来のことを心配して心が折れそうになるときだってあるんだもの。
 
それをきっかけに少しずつまた話すようになって、ある日「オレの一族にさす暗い影について話しておきたい」って打ち明けられたの。そして一枚の写真を見せられたわ。

あたし「えっ?このニョロニョロみたいなのは誰なの?この勝ち誇ったような笑みはなんなの?」

彼「落ち着いてくれ。オレもまだ自分で遭遇したことはないんだ。ただ、こいつが現れるとオレたちは大変な目に遭う、と言われているんだ」

彼「こいつはな完全寄生植物の一種で、名は英語でアイビー・ブルームレイプという」

あたし「待って。アイビーはキヅタよね、ブルームは花、でもそれに続く単語はちょっときつすぎて口に出せないわ。ど、どうゆうことなの?」

彼「オレたちは共生菌とコミュニケーションを取るために根からホルモンを出しているんだ。共生菌はきみも知っているように養分や水分を取るためにとっても役に立つ存在だ。
ところがだ。このホルモンに惹かれてハマウツボ科の一つであるこいつがやってきちまうことがあるんだ。そして根っこに完全寄生する」

あたし「完全寄生ってことは、あなたたちから養分を摂取するしか彼らの生きる術がないのね」

彼「そうだ、学名はOrobancha hederae。そこからわかるようにキヅタに特化している。ちなみにanchein=ラテン語で締め殺しを意味するときている」

あたし「ちょっと待って。あなたたちから吸い取れるものをすべて吸い取ったらどうなるの?」

彼「一緒に心中状態だな。でも奴らは無数の細かい種子を作り、その種子はオレらキヅタの根が近くにやってくるまで何年でも待てる能力を備えている」

あたし「なんて存在なの、あたし怖い」

彼「心配しなくってもいいよ。ここまで追ってくるとは思えない。けど近くで見たって情報が最近入ってきたんだ」
 
彼が時折ふと見せてきた暗い表情がようやくこれで理解できた気がしたわ。そして私に過剰なまでにもたれ掛かってきた理由も。きっとそう、一族を襲う存在から来る不安だったのよ。
 
そうしたらやりとりの終わりにふっと彼がもらしたの。

「キヅタの長老が言ったんだ。オレたちは愛されているのかもしれない。寄生され、運命をともにするのは究極の愛の形の一つかもしれない、ってな」。
 
違う。あたし心の中で彼に向かって「愛はきっと奪うものでも与えるものでもない。気がつけばそこにあるもの(byミスチル「名もなき詩」)。宿主に寄生する関係は奪い、奪われるの一方通行でそこには通い合う愛はないの」と叫んでたけど、声にはならなかった。
 
どうして言わなかったのかって?その時は心を許しちゃダメ、また覆いかぶさられるって警戒が解けなかったの。
深い話を打ち明けてくれてもあたしはどうしても自信がもてなかったから。
 
でもそうこうしているうちに年が明け、あたしがようやく目覚めかけた今月のことよ。ふと気づいたら草、ニセキツネガヤさんの一群があたしの肩に届くような高さにまで伸びていたのよ。

こんな事態は初めて。息苦しくなるような気がしてあわてていたら彼が耳元で「大丈夫。オレがついている」とささやいてから、新緑のみずみずしい腕でぎゅっと抱きしめてくれたの。


なぜこんなところに、とびっくりするよりも独りじゃないんだって心強かった。もしかしたら、彼も慌てふためいて背の高いあたしによじのぼってきたんじゃないか、利用されてるんじゃないかって疑惑も頭をかすめたんだけどね。
 
でもいいの、こんなハプニングもうれしいことも悲しいことも彼と一緒にって素直な気持ちになれたから。

それを彼に伝えたら君の好きな歌をプレゼントするよ、って言ってくれたの。
あの曲ね、って待ってたら「つたのからま~るチャペールで」(ペギー葉山、「学生時代」)って歌い出すんだから、もう可笑しいたらありゃしない。
ヤダ、それじゃない。それはあなたのテ一マソング。

あたしが支えてやらなきゃ生きていけないような彼だけど、そういうボケをかまして笑わせてくれるお茶目なところがやっぱり好きだな。

で、仕切り直して歌ってくれたの。
「一度転んだからこそ見える世界があるならもう二度とその手を離さないように やっと気づいたんだ君と過ごす日々」(Uru 「それを愛と呼ぶなら」)


最後に気づいたの。あたしたちには支え合える喜びと分かち合える悲しみがある。そしてあたしはそれを間違いなく愛と呼ぶ。





 

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