ワインがつなぐ12の物語 8章
#創作大賞2026 #コミックエッセイ部門
グルナッシュ

第8章 ギャップだらけの若者たち ― 電通の優等生、プリンセスな相棒、そして東大卒コンビ
人は見かけによらない、とよく言う。しかし、この二人のギャップは「よらない」どころの話ではない。もはや別人かと思うほどだ。
電通の沙羅ちゃんと、テレビ局の駿也くん。日本を代表するメディア企業に勤める若手エリートの二人には、表の顔と裏の顔が、あまりにも鮮やかに同居している。
学級委員長、メキシコで倒れる ― 沙羅さん
沙羅ちゃんのことを紹介するのに、一つだけエピソードを選べと言われたら、私は迷わずメキシコの話をする。
でもその前に、まずは「表の顔」から。
沙羅ちゃんは、絵に描いたような優等生だ。学生時代はずっと学級委員長や生徒会長を務めてきたというタイプで、私のワインスクールでも、その真面目さは際立っていた。
授業ではいつも前のめりで聞き、丁寧にメモを取る。予習も復習も欠かさない。試験前に「私、百点満点取ります」と宣言して、実際にクラストップの成績を叩き出した時は、「この人、本当に有言実行だな」と感心した。
美人で、秀才で、真面目。まさに高嶺の花。電通という日本最大の広告代理店にいるのも納得の、隙のない完璧さ。
――と、ここまで聞くと、ちょっと近寄りがたい印象を持つかもしれない。
しかし、これが沙羅ちゃんのすべてではない。
沙羅ちゃんは去年、結婚した。おめでたい話だ。新婚生活を満喫するかと思いきや、数ヶ月後には一人でメキシコとアメリカを横断する約一ヶ月の旅に出た。
新婚で。一人で。メキシコ。一ヶ月。
この時点で十分驚きなのだが、話はここからだ。
メキシコには「死者の日」というお祭りがある。日本のお盆に似た行事だが、その表現方法はまったく異なる。街中が鮮やかなマリーゴールドで飾られ、人々はガイコツのメイクをして、骸骨の衣装を身にまとい、音楽と踊りで亡き人を偲ぶ。映画『リメンバー・ミー』で世界的に有名になったあのお祭りだ。
沙羅ちゃんは、現地でフルの骸骨メイクと骸骨の衣装に身を包み、このお祭りに参加した。学級委員長が骸骨になっている。このギャップだけでも十分面白いのだが、問題はその後だ。
お祭りの熱狂の中で、テキーラを飲みすぎた。
骸骨の姿のまま、倒れた。
救急車で運ばれた。
……学級委員長が、骸骨のコスプレをしたまま、メキシコで救急車に乗っている。
この話を初めて聞いた時、私はしばらく笑いが止まらなかった。あの完璧な優等生の沙羅ちゃんが、地球の裏側で骸骨になってテキーラで倒れている。しかも新婚数ヶ月目に。よくそのまま無事にアメリカ横断を続け、生きて日本に帰ってきたものだ。
人は見かけによらない。沙羅ちゃんは、その言葉の最高の体現者だ。
沙羅ちゃんとの出会いは、二期生の佐々木りえさんの紹介だった。私の会員制クラブでの食事会で初めてお会いし、三期生として手を挙げてくださった。仲良しのみどりちゃんと一緒に、いつも二人で通ってくれた。
今は新婚の旦那様と一緒に、私のワインの定期便を楽しんでくださっている。メキシコでテキーラに倒れた女が、今は家庭で穏やかにワインを楽しんでいる。人生は面白い。

プリンセスな相棒 ― みどりちゃん
沙羅ちゃんを語る時、この人を抜きにはできない。みどりちゃん。三期生で沙羅ちゃんと一緒にいつも二人で通ってくれた、大切な仲間だ。
みどりちゃんは、とにかく素直でかわいらしい人だ。おっとりしていて、ちょっと天然なところもあって、一緒にいるだけでハッピーな気分になれる。しっかり者の沙羅ちゃんと本当にいいコンビで、二人合わせてプリンセスのようだ。
ワインが大好きで、一緒にワインの醸造体験も楽しんだし、ワイン会でもいつも笑顔で楽しんでくれる。我が家にワインを飲みに来てくれる時には、必ずいろんなお土産を持ってきてくださる。私の誕生日にもプレゼントをくださったり、本当によく気がつく、心優しい三期生だ。
ティアラをつけたお誕生日の写真のみどりちゃんは、本当にかわいい。沙羅ちゃんとのコンビは、学級委員長とプリンセス。対照的だけれど、最高の相棒だ。

東大卒の天真爛漫 ― 駿也くん
もう一人のメディアっ子、駿也くんのギャップも負けていない。
テレビ局勤務。東京大学出身。この二つの肩書きを聞くだけで、いかにもエリートの、堅そうな人物を想像するだろう。
実際に会ってみると、まったく違う。
とにかく明るい。楽しい。天真爛漫。東大出身の秀才特有の「頭の切れ」はあるのだが、それを感じさせないほど気さくで、人懐っこい。ワインの知識も豊富で好奇心旺盛なのに、偉ぶったところが一切ない。
駿也くんは四期生だ。実はそれ以前から「参加したい」と言ってくださっていたのだが、しばらくお待たせしてしまった。今年からようやく四期に入ってもらった。同じく東大出身の昌平くんと二人で参加してくれている。東大卒が二人もワインスクールに通っている光景は、なかなか壮観だ。
駿也くんのエリートらしからぬ一面は、ワイン会でも遺憾なく発揮される。同じ四期生の仲間と一緒に、朝の四時までワインを飲み続けたこともある。テレビ朝日の社員が朝四時まで飲んでいるというのは、なんとも絶妙なオチだ。
先日一緒に行った新潟のカーブドッチワイナリーでも、駿也くんは目一杯エンジョイしていた。おいしいワインを飲み、地元の食事を堪能し、ワイナリーショップで楽しそうに買い物をする。その姿はエリートでも秀才でもなく、ただのワインが大好きな青年だった。
そして意外なことに、駿也くんは料理が上手いのだ。自宅で食器にもこだわりながら、素敵な食事を作るという。テレビ局で番組制作に関わる感性が、キッチンでも発揮されているのかもしれない。いつか駿也くんの手料理ディナーに招待してほしいと、私は密かに楽しみにしている。

もう一人の東大卒 ― 昌平くん
駿也くんと一緒に四期生として参加してくれたのが、昌平くんだ。なんと、もう一人の東大卒。東大卒が二人もワインスクールに通ってくれているという事実だけで、ワインの引力の強さが伝わるだろう。
駿也くんが天真爛漫な太陽だとすれば、昌平くんはクールな月だ。常に冷静で、頭が切れて、穏やか。落ち着いた雰囲気の中に、知性がにじみ出ている。勉強もできて、仕事もできて、しっかりしている。一言で言えば、ナイスガイ。
しかし、この穏やかな青年には、意外な一面がある。
めちゃくちゃよく食べるのだ。
我が家に来てくれた時、どんなに料理を出しても、あっという間にぺろっと平らげてしまう。「足りるかな?」と心配になるほどの食べっぷりだ。けれど、たくさん食べてくれるのは、もてなす側としてはこんなに気持ちのいいことはない。よく食べて、よく飲む。本当に健康的だ。
そして昌平くんは、ワインへの情熱を仕事にも広げ始めている。ワインやシードルなどの果実酒を海外から輸入するビジネスをスタートさせたのだ。ワインスクールで学んだ知識を、ビジネスとして実践に移す。その行動力は、同じ章で紹介した沙羅ちゃんの大胆さにも通じるものがある。
新潟のカーブドッチワイナリーには、去年に続いて二年連続でご一緒した。二回目のワイナリーツアーは、初めての時とはまた違った発見がある。昌平くんと一緒に過ごす時間は、穏やかで、楽しくて、いつもあっという間に過ぎていく。
四期生の中で、東大卒コンビの存在は特別だ。天真爛漫な駿也くんと、クールな昌平くん。タイプの違う二人が並ぶと、不思議なバランスが生まれる。知性と好奇心を兼ね備えた二人が、ワインの世界に新しい風を吹き込んでくれている。
グルナッシュのように
沙羅ちゃんとみどりちゃん、駿也くんと昌平くん。電通、テレビ局、IT企業、そしてそれぞれの世界で輝く若手たちに共通しているのは、「ギャップの魅力」だ。
優等生なのに大胆不敵。秀才なのに天真爛漫。おっとりしているのに芯が強い。完璧に見えて、実はとんでもないエピソードを隠し持っている。そのギャップが、この若者たちを最高に魅力的にしている。
そんな4人にぴったりのブドウ品種がある。グルナッシュだ。
グルナッシュは、ワインの世界で最も「ギャップ」のある品種の一つだ。フランスでは「グルナッシュ」、スペインでは「ガルナッチャ」と呼ばれる。名前からして二つの顔を持っている。
見た目は淡い色合いで、おとなしそうに見える。ところが口に含むと、アルコール度数が高く、力強い。沙羅ちゃんの美人で優等生な外見と、テキーラで倒れる大胆さ。駿也くんの東大エリートという肩書きと、朝四時まで飲み続ける天真爛漫さ。グルナッシュのギャップは、このギャップそのものだ。
そしてグルナッシュは、温かい土地で最も輝く品種でもある。南フランスのシャトーヌフ・デュ・パプ、スペインのプリオラート。太陽をたっぷり浴びた土地で、大らかで温かいワインを生む。
4人とも太陽のように明るい。一緒にいるだけで、周りの人を温かい気持ちにしてくれる。メディアの世界で忙しく働きながら、ワインの時間には全力で笑い、全力で楽しむ。
若い世代が、こうしてワインを愛してくれること。肩書きやキャリアではなく、「おいしい」「楽しい」という純粋な気持ちでグラスを傾けてくれること。それが、ワインスクールの講師として何よりも嬉しいことだ。
学級委員長のテキーラ事件も、東大卒の朝四時飲みも、ワインの前ではただの楽しいエピソードだ。人生は真面目なだけでもつまらないし、大胆なだけでも危なっかしい。その両方を持っているからこそ、この二人は魅力的なのだ。
グルナッシュのように。温かく、大らかで、そして予想外に力強い。
ワインコラム:グルナッシュ ― 太陽が育てた二つの名前を持つ品種
グルナッシュ(フランス語)またはガルナッチャ(スペイン語)。同じ品種が二つの名前を持つこと自体が、この品種の多面性を象徴しています。
原産地はスペインのアラゴン地方とされ、そこからフランス南部、イタリアのサルデーニャ(カンノナウ)、オーストラリアなど世界中に広がりました。世界で最も広く栽培されている品種の一つです。
グルナッシュの最大の特徴は、高いアルコール度数と温かみのある果実味。ラズベリーやイチゴのような赤い果実の香りに、スパイスやハーブのニュアンスが加わります。色は意外にも淡く、見た目のおとなしさとは裏腹のパワーを秘めています。
最も有名な産地はフランス・ローヌ地方のシャトーヌフ・デュ・パプ。十三種類ものブドウのブレンドが認められている中で、グルナッシュが主役を務めます。スペインではプリオラートの古木のガルナッチャが、世界のワイン評論家から最高評価を受けています。
ロゼワインの世界でもグルナッシュは主役。プロヴァンスの淡いピンク色のロゼは、世界中のビーチやテラスで愛されています。赤もロゼも造れる、まさに「二つの顔」を持つ品種です。
料理との相性は、地中海料理全般と抜群。ラタトゥイユ、子羊のグリル、トマト煮込み。太陽の恵みを受けた料理に、太陽を浴びて育ったグルナッシュ。黄金の組み合わせです。

